2021年6月14日、東京渋谷PARCO Museumで開催中の『LIVESTOCK』へ足を運んだ。
『LIVESTOCK』は、現代アーティストのサエボーグさんの個展だ。サエボーグさんはラテックス製のボディスーツを自作し、それらを装着してパフォーマンスを展開する。
サエボーグさんの世界観はとにかくユニーク。一見すると可愛らしい豚や羊、女の子といったキャラクターがステージ上で動き回るが、その背景には、誰もが「当たり前」だと考えている“人間と家畜”という関係性への問題提起がある。それは「性とは?」「死とは?」といった哲学的な問いへとつながり、風刺の利いたパフォーマンスへと昇華される。
豚の屠殺というと残酷なものになりがちだが、それをあえてラテックス製のボディスーツで表現することで、多くの人たちが直視できるアートとなっている。
ウ●コを解体するフンコロガシが活躍するパフォーマンスもあるが、ウ●コもラテックス製なので、汚物感がなく、誰にとっても受け入れやすい。実際にその光沢を見ていると触ってみたくなる。(ちなみに展示物に手を触れるのは厳禁)
ラテックスは愛好家の間では根強い人気を誇り、肌に密着するラテックス製の衣装は「第二の皮膚」ともいわれる素材だ。サエボーグさんは、人間の皮膚と完全な無機物との中間的存在であるラテックスを表現のツールとして使っている。このことは、境界が明確なようでいて実はそうでもない“性別””生死”といったテーマを追及するのに最適だといえる。
僕たちは、スーパーの棚に並んでいる豚肉を「当たり前」のものとして買って食べている。その「当たり前」の裏側には、たくさんの豚が命を奪われているという現実がある。一方で、現実を突きつけられれば、多くの人々は「気持ち悪い」「残酷だ」と言って目を逸らすだろう。
しかし、サエボーグさんはこうした現実を“アート”という形で僕たちに見せてくれる。誰もが楽しめる作品やパフォーマンスだが、楽しんだ後にふと「あれはどういう意味なのかな?」と考えさせられる。単に「楽しかった」で終わりではないインパクトがある。天才的な発想や表現方法が、見る者の記憶に深い爪痕を残し、それが思考を促すのだ。
サエボーグさんは世界的にも評価が高い。オーストラリア・タスマニア州の祭典“Dark Mofo”で現地の人々を熱狂させ、他のアーティストたちを魅了したほどだ。
そんなサエボーグさんの作品を実際に見られるのは貴重な機会だ。
会場では2本のパフォーマンス映像も見られる。映像の中で動き回っていた家畜と、展示されている実物を見比べてみるのもおもしろい。ラテックスで作られた豚の体はどうなっているのか、屠殺シーンで切り裂かれた部分はどうなっているのか、引き出された内臓の一つ一つはどうなっているのか……。パフォーマンスを見ているだけではわからない精巧な作りに驚かされるはずだ。
展示作品を見て、パフォーマンス映像を見て、さらにいろいろ考えて……。『LIVESTOCK』の世界に迷い込むと、時が経つのも忘れて長居してしまうことだろう。