溺英恵「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」を読む

溺英恵先生がpixivで公開した創作BL漫画「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」を読んだ。Twitterのトレンドに入っていたので、何となくリンクをたどって読み始めたら、思いっきり感動してしまった。

BL(ボーイズラブ)なので、このジャンルに苦手意識を持つ人も少なくないだろう。しかし、現在(2021年5月5日)公開されている第四話までには、「男×男」の肉体的なシーンは描かれていないので、誰にとっても受け入れやすいと思う。逆にいえば、性的要素を一切入れずに読ませるマンガということで、そのストーリーの秀逸さには脱帽するばかりだ。

主人公は、漫画を描けなくなって追い詰められ、アルコール依存症や自律神経失調症などを発症して精神を病んだ漫画家の男性、福田矢晴(ペンネーム「古印葵」)と、売れっ子漫画家の男性、上薗純(ペンネーム「望海可純」)。第四話までで、矢晴が心身ともにボロボロになるまでが描かれた後、出版社の編集部を訪れた際に純と出会い、純の家で純と一緒に暮らし始めるまでが描かれる。

「古印葵先生のファン」である純は矢晴にグイグイ迫っていくが、単なるファン以上の愛情を示す。ありのままの矢晴を受け入れ、徹底的に矢晴に尽くす。どうしてそこまで矢晴に入れ込むのかは第四話まででは不明だが、今後のストーリーで明らかになるのだろう。

「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」で感動的なのは、純のセリフや行動の数々である。純はゴミだらけの不衛生な部屋から矢晴を連れ出そうとするが、矢晴はそれを拒否する。しかし、純は、矢晴が「ゴミ屋敷作るほど性格が怠惰なの」を受け入れ、自分が矢晴の世話をすることを誓う。矢晴が「私は純さんの漫画読んでないです」「私はあなたに無関心です」と言っても、純は「私があなたを助けたいのと私の漫画はなにか関係あるんですか?」と気にしない。そして、矢晴を抱きしめて……。

こんな感じで純は矢晴の全てを受け入れて一緒にいることを望むのだが、これはBLに限った話ではなく、「本当に他人を愛する」本質なのではないかと思う。

誰かを好きでも、その人の欠点、ましてや心身の障害までもを受け入れるのは難しい。たとえ親子や恋人であっても、好きな人がボロボロになってしまったら、そこで関係が破綻してしまうケースは珍しくない。現実がこうであるからこそ、純の言動が多くの人たちに受け入れられ、BL漫画でありながらもTwitterでトレンド入りしたのだろう。

僕も「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」を読んだ後、「自分だったらどうだろう?」と考えてしまった。誰かにあるがまま受け入れてもらいたいという願望はないが、逆に誰かをあるがまま受け入れられる存在になりたいとは思う。ただ、そのためにはどうしても経済力が必要だ。純は、売れっ子漫画家だからこそ、何もできない矢晴を引き取ることができた。それは僕にとっても同じで、好きな人に「何もしなくていいし、生活費の心配もしなくていいから、自分のそばにずっといてほしい」と言えるためには、お金持ちでなければならない。

「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」と出会えたことをきっかけに、将来誰かと同居すること(親の介護?)を考えさせられた。そして、「今の楽な生活に満足せず、もっと仕事をして、もっと稼がなければならない!」という決意を新たにした。(感想の締めくくりが金の話(笑))

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