【ラノベチャレンジ】蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』1巻を読む

勉強?のために読んでいた蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』を読み終わった。

ゴブリンスレイヤー (GA文庫)

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『ゴブリンスレイヤー』は、オンライン小説から一般小説化した作品。「このライトノベルがすごい!2017」の新作部門で1位を受賞するほどファンも多い。

僕が『ゴブリンスレイヤー』を読んだ目的は、若年層を中心とした読者から支持される理由を知りたかったからだ。ただ、読み始めたら、普通に面白くて、あっという間に読んでしまった。僕が感じた「面白さ」について考えてみたい。

最弱モンスターとされがちなゴブリンだけを倒し続ける青年、ゴブリンスレイヤーを主人公として、タイトル通り、ひたすらゴブリンとの戦いが描かれる。「ゴブリンだけ」という点は発想としては斬新だが、ストーリー自体は王道というべきだ。ゴブリンスレイヤーがゴブリンに拘る理由もよくあるもので、これといった目新しさがあるわけでもない。

他のユニークな点としては、登場人物の固有名詞が一切出て来ないことだ。ゴブリンスレイヤーは固有名詞のようなものかもしれないが、それ以外の登場人物に至っては「女神官」「牛飼娘」「妖精弓手」などなど。こういう表記法のせいで、人数が多くなると、「誰が誰?」となることもあるにはあるが、読み進める上での支障はほとんどない。むしろ、固有名詞を使わずに話を進められる筆力に脱帽する。

ゴブリンの描写がリアルで、醜悪さが前面に押し出されているのも特徴だ。RPGだと序盤の敵になるゴブリンは、場合によっては「可愛らしい小鬼」のように描かれる。しかし、『ゴブリンスレイヤー』のおけるゴブリンは完全な「悪」で、情けをかけることなく駆逐すべき存在とされる。読者は決してゴブリンに感情移入できないようになっている。

もっとも、以上で紹介したユニークさは面白さとイコールではない。

僕が感じた面白さは、登場人物同士の心の交流が丁寧に描かれている点にある。主人公のゴブリンスレイヤーは、ゴブリンを狩ることにばかり執着して、一見すると「おかしい」「不愛想」だ。しかし、そんな彼の周りに集まってくる人物を通して、彼の本当の姿が見えてきて、しかも彼自身の気持ちが変化していく。

約350ページの作品は、戦闘や冒険のシーンだけでなく、登場人物たちの日常やパーティーの食事、ゴブリンスレイヤーの休暇など、アクションの無いシーンにもそれなりのページが割かれている。退屈になりがちなこれらのシーンにこそ、じっくり読みこんでしまう人間ドラマがある。

個人的には第6章「旅の仲間」が好きだ。人間、エルフ、ドワーフ、リザードマンという異なる種族の混合パーティーが、食事を通してそれぞれの習慣や性格の違いを認識する一方で、絆が強まっていく。中でも、ゴブリンスレイヤーが提供したチーズが絆の象徴として描かれる。ストーリー展開には直接必要ない食事のシーンだが、ストーリーに厚みを持たせる役割を担っている。

第5章「思いがけない来客」では、新米戦士&見習聖女とベテラン魔女を登場させて、ゴブリンスレイヤーと行動を共にする女神官の気持ちを一つの方向へ向かわせている。特に魔女の「きちんと自分で、決めなさい、な」というセリフは印象深い。

こうした人物描写や情景描写の巧さが、読者を作中へと引き込むのだと思う。戦闘シーンをメインに描けば、スピーディーで、読者に爽快感を与えるかもしれない。しかし、それだけだと「ゴブリンスレイヤーたちがゴブリンを倒す話」で終わり、読後に「面白かった」以上の感動は残らない。このレベルだったら、「このライトノベルがすごい!2017」の新作部門で1位を受賞しなかっただろう。

最近の若者たちは行間を読めないし、そもそも日本語も読めない。LINEなどでは、文にすらなっていない短い言葉のやり取りしか行われず、文章の読み書き能力は衰えている。おじさんの僕はそんな偏見を抱いていた。

しかし、『ゴブリンスレイヤー』のように、セリフと人物描写や情景描写がバランスよく盛り込まれた小説がヒットしたことを考えると、ティーンの読者は決してバカではないこともわかる。むしろ、きちんと人物が描写されていないと、ティーンの読者は物足りなく感じてしまうのかもしれない。

おじさんにとっての「面白さ」は、きっとティーンたちと共有できるはずだ。『ゴブリンスレイヤー』を通してそんなことを学ばせてもらった。

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