劇団アフリカ座・私はここにいますproject第2弾『Wind Business~桶屋になりたいあなたへ~』千秋楽を観劇した。
日曜日の夕方にリアルタイムでまったり観劇する予定だった。しかし、タイミング悪く仕事が入ってしまい、2日後にようやくアーカイブを視聴できた。バタバタしている時期での観劇だったからこそ、感激もひとしお――。
……というオヤジギャグはさておき、ネタバレしない程度に、思ったこと・感じたことを書き残しておきたい。
キーワードはタイトルの通り「風が吹けば桶屋が儲かる」。<一見何の関係もないような出来事>が影響し合っていく面白さを描いたストーリーだ。
ランジェリーショップ「OKEYA」を中心に、劇団、パティスリー二階堂、キャンパー、女子高生……。彼女たちの思いと行動が絡み合い、意外な結果を引き起こしていく。
アフリカ座の劇全体の特徴でもあるのだが、絶妙な台詞回しは単に面白いだけでなく、人生の本質を突いていることが多く、観劇中に何度もハッと考えさせられる。「学びの宝庫」とでもいうべきなのだ。
OKEYA社長・桶屋礼子(若林美保)は、最初の方のシーンで「風が吹いてくるのを待っていても仕方ないから、自分たちに向かって風を吹かせましょうよ」と言う。経費をかけて作ったCMが本来の目的を達成できなくても、「風が吹けば桶屋が儲かる」の「風」を自分たちで作っていこうという姿勢は、ビジネスを行なう者としてとても大切な視点だ。
そして、桶屋社長のセリフと対になるのが、「変人」臭を漂わせるキャンパー・川田睦美(山元彩)のセリフだ。川田は「風は吹かせるものじゃない。吹いてくるものだ」という一方で、「われわれ人間に風を起こすことはできない。だが、風が吹いたときに、それを余すことなく活用できるよう、準備をしておくことくらいはできる」と心構えを説く。
桶屋の主張と川田の主張は相反するようでいながら、実はどちらも人生の本質を言い当てている。自分に有利な「風」を吹かそうと努力したり試行錯誤したりすることは大切だ。しかし、物事は上手くいかないことも多い。そこで腐らず諦めず、「風」が吹いたときのために心のアンテナを張り巡らせておく。そうすれば、意外なタイミングで幸運に恵まれるものだ。
劇中の「風」が象徴するものは、桶屋社長の最後のセリフ――「人と人とをつなげる」――に尽きるだろう。<一見何の関係もないような出来事>が影響し合う因果関係の糸を紡ぐのは人なのだ。ことわざとしての「風が吹けば桶屋が儲かる」は自然現象の連鎖に過ぎないが、人間社会を生きる僕たちは人と人とのつながりを意識するべきだろう。幸運をもたらすのも、不幸をもたらすのも、結局は人なのだから。
僕もちょうど今、個人事業主として仕事の方向性を考え直している最中だ。だからこそ、劇中のキーワードである「風」が自分の進むべき道を示してくれているように思った。セリフの一言一言が胸に沁み、そして背中を押してくれる励ましとなったのだ。
個人的に考えたことはこのくらいにして、『Wind Business~桶屋になりたいあなたへ~』の他の魅力についても紹介しておこう。
何といっても、出演者の皆さんがとても美しい。女性キャストだけで作り上げる舞台なので、男性である自分にとっては新鮮さが満載だ。たとえば、自分でランジェリーを選ぶことが大人への第一歩になる、しかしランジェリーショップに入るのは恥ずかしい――。こういう女性の心理を知ることができるのはありがたい。
それから、劇中で演劇について言及するのも斬新だった。劇団員の報酬、著作権の帰属問題、劇団の盛り上げ方など、生々しい(?)話が挿入されていて、思わずクスッとさせられた。
僕自身の推しはこれまでも、そしてこれからもずっと若林美保さんだ。若林さんは、あるときは勇ましくてかっこいい人物を、またあるときは劇の象徴的存在を、そしてまたあるときは官能的で小悪魔的な美女を……という感じで、いつも魅力的な人物を演じている。『Wind Business~桶屋になりたいあなたへ~』では、社員から慕われる懐の広い女社長役だったが、この役も若林さんにぴったりだと思った。僕も若林社長の下でなら働いてみたい(笑)
そして、今回は鉄観音サワラさんがパティスリー二階堂のパティシエ・二階堂薫役を、灯月いつかさんがOKEYA営業社員・三島美優役を演じ、二人の濃密な掛け合いが一つの見せ場となっていた。二人にはイベント取材の際にお世話になっているが、そのときの印象とは違う姿を見られたのが嬉しい。好きな人たちの非日常的な側面を見られるのも劇の醍醐味といえるだろう。
配信ならではのメリットもある。劇場では見られない角度から役者さんの表情や動きを見られたり、お気に入りのシーンを何度も再生できたり……。いつも同じことを書いているが、アフリカ座の劇は常に進歩していて、オンラインでもリアルに負けないくらいに楽しめる。もちろん、コロナ禍が収まったらまた劇場に足を運びたい気持ちもあるが、オンラインも捨てがたい。
『Wind Business~桶屋になりたいあなたへ~』は誰にとっても楽しめるすばらしい作品だ。