溺英恵「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」第五話を読む

溺英恵先生の創作BLマンガ「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」の第五話が公開された。

後に売れっ子漫画家となる上薗純(ペンネーム「望海可純」)が福田矢晴(ペンネーム「古印葵」)のマンガと初めて出会い、感銘を受けるシーンからストーリーは始まる。矢晴が世間から評価されずに消えていったことに落胆し、自らが矢晴のマンガの布教に努めるしかないと考える。

古印先生の本来の良さの支持者が少なかったのかもしれない

だとしたらもっと布教してこの世の基準を私寄りにするしかない

純のこの考え方に共感した。

そういえば自分も何年か前、ライターの仕事を開拓するため、あちこちに営業をかけていた時期があった。このときの目的は2つ。

  1. 新たな収入源を確保する。
  2. 自分の好きな人やイベントを布教する。

1が達成されて生活が安定したため、2はほとんどやらなくなってしまった。

「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」の第五話を読んで、「昔は自分も純のように考えていたな……」と思い出すきっかけになった。きっかけになったからといって、「今年は取材を頑張ろう!」となるわけでもないのだが……。

そんな自分のことはさておき、溺英恵先生の人物描写は本当に上手い。純が矢晴に惹かれていく過程や、世間が何にどう反応しているのかを冷静に分析する純の視点など、表情や言葉でも描写するが、それだけではない。

純がインタビューで「今そんな話してないんですが」と突っぱねるシーンや、LINEグループを意図的に退会するシーンなど、純の静かな怒りがひしひしと伝わってくる。こういうシーンを描けるのは本当に上手いと思う。マンガだと直接的な表現での勝負が多いが、間接的な描写を使って登場人物の心理を丁寧に表現できる溺英恵先生には脱帽するばかりだ。

何よりも「BL」というジャンルでありながら、性的描写を使わずにここまで読ませて、「続きはどうなるんだろう?」と期待させるだけのストーリー展開が素晴らしい。BL(というか恋愛マンガ全般)に興味のない僕でも惚れ込んでしまう作品だ。単行本になったら是非とも購入したい。

今後の展開がとても気になる作品だ。

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