「妖怪なんていないのに、どうして好きなんですか?」に答えてみた

「妖怪大好き」を公表している僕は、しばしば生徒たちから次の質問をされます。

妖怪なんていないのに、どうして好きなんですか?

こういう質問をする生徒は、「妖怪なんていないのにそんなものが好きだなんて、この先生、頭がオカシイんじゃない?」と思っているのでしょう。「頭がオカシイ」という点は認めるとして(笑)、妖怪たちの名誉のため、質問に対して真面目に答えますね。

妖怪が想像力を育む

妖怪に興味のない生徒たちからすると、「妖怪なんてくだらない」なのでしょう。

「くだらない」と思うこと自体は別に構いません。でも、その「くだらない」の理由が「妖怪は存在しないから」だったら、ちょっともったいないな、と僕は思います。

この世に存在しないものや目に見えないものを「くだらない」と切り捨てる態度は、想像力の欠如につながるからです。

実際のところ、僕自身も妖怪の存在を全く信じていません。「妖怪がいる!」なんて真顔で言う人がいたら、「病院に行ったら?」と勧めると思います。そんな僕が妖怪好きなのは、妖怪を文化と捉えているからです。

昔の人たちは、自然現象を「妖怪の仕業」として考えて畏怖してきました。また、自分たちで解決できない問題も「妖怪の仕業」として精神的安定を得ていました。時に妖怪を利用して権力者に対抗したり、子どもを戒めるための教訓にしたりしました。

科学が発達した現代では非科学的な迷信と考えられがちな妖怪ですが、時代を遡れば重要な意義があったんですね。こうした歴史的・文化的背景に想像をめぐらすことは、自分とは異質な他者を理解する第一歩です。他者との共存の大前提となる想像力を育んでくれるのが妖怪なんですよ。

妖怪と結びついた価値観

昔の人々は、目に見えない存在を恐れ、敬い、そうした者たちと共存してきた、というのは前述の通りです。実際、平安時代の古典文学を読むと、鬼やら怨霊やらが跋扈して、政治すらも動かしてきたことが分かります。

そんな昔の人々は、迷信まみれの未開社会で不幸に耐えていたのでしょうか?

そうではなかったと僕は思います。目に見えない存在に対する畏敬の念は、道徳や謙遜、自然崇拝などに結びついていました。それは、当時の人々にとって、心の拠り所であると同時に生活の規範でもありました。

たとえば、「妖怪アカナメが出ないように、お風呂はキレイにしておこう」と言われて、子どもは素直に風呂掃除をしたのでしょう。「あの山には、人を取って食うオニババアが住んでいて……」と言い伝えられていたからこそ、興味本位で山に入って遭難する人もいなかったのでしょう。

一方、現代社会は、目に見えない存在を否定してしまったことで、あちこちに綻びが見られるようになりました。「法に触れなければ何をやってもよい」「誰も見ていないなら好き勝手にしてよい」と考える人たちが増えて、「妖怪よりも生身の人間の方が怖い」といわれて久しいです。目に見えない存在と一緒に、人間として大切にすべき価値観も否定してしまったんですね。こんな社会が本当に「豊かな社会」なのでしょうか?

僕たちのご先祖様が恐れ敬ってきた妖怪について考えることは、現代社会で失われつつある価値観に目を向けることでもあります。

妖怪は「非日常」の象徴

妖怪についてグダグダ述べてきましたが、その根本にあるのは、何と言ってもやっぱり「非日常」への憧れです。

僕は、幼いころから妖怪が好きでした。姿かたちの面白さという点でも興味をそそられましたが、それだけでなく、「妖怪たちの住む世界に行ってみたい」という思いが強かったんですね(妖怪自体は信じていなかったのにね(笑))。水木しげる『鬼太郎なんでも入門』に描かれた「隠れ里」や「別荘」、「鬼太郎温泉」などが大好きで、ずっと眺めていたくらいです。

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妖怪の世界を夢想していた僕は、大人になるにつれて、現実世界に「非日常」を求めるようになりました。そして行き着いた先が、エログロフェティッシュなアンダーグランドの世界だったわけです。大人になるって悲しいですね(笑)

閑話休題。「非日常」の象徴である妖怪への興味は今も続いています。大人になっても、いやむしろ、大人になったからこそ、現実から逃避したくなることがあります。そんなとき、妖怪が僕の心を癒してくれるんです。

妖怪好きは一生変わらない

「妖怪なんていないのに、どうして好きなんですか?」への回答を、思いつくままにつらつらと書いてみました。回答になっていたかしら?(笑)

『怪 Vol.0047』(カドカワムック)にも、境港妖怪検定上級合格者として、「『つながり』としての妖怪とともに」という文章を寄稿しました。こちらも読んでいただけると、僕の妖怪に対する情熱がもっと伝わるかな、と思います。

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