石川結貴『モンスターマザー世界は「わたし」でまわっている』を読む

教育にはお母さまの意向が反映されやすいものです。そのため、教育に携わろうとする者、現代のお母さま方について知っておく必要があります。

そこで僕は『モンスターマザー 世界は「わたし」でまわっている』を手に取りました。本記事は、この本についての書評です。

運動会でピザを注文するのは非常識か?

いわゆる「モンスターペアレント」の母親バージョンがさまざまな事例とともに紹介されています。「しつけをしない」「給食費を払わない」「子どもを私物化する」など、明らかに子どもの教育上よくない事例がてんこ盛りで、読んでいて「こんな母親は嫌だ」と思ってしまいます。

こうした極端な事例以上に僕が気になったのは筆者、石川結貴さんの考え方です。

石川さん自身が二児の母親ということで、今風の母親にいろいろ思うところがあるのは分かります。しかし、僕は、石川さんの意見に全面的には賛同できませんでした。

そもそも、石川さんが批判している事例が全て問題かといえば、僕はそう思いません。たとえば、小学校の運動会で10枚のピザを注文し、それを自分の子どもと同級生に配った母親がいたという事例。この母親に対して、石川さんは次のように述べています。

自分勝手な考えで、「自己チュー」的にふるまう母親は以前からいたし(さすがにピザの出前まではなかっただろうが)、何も母親に限ったことではなく、社会のどこにでも非常識な人はいる。ただ、以前ならそうした人はあくまでも例外、問題視された。もしも十数年前の小学校の運動会でピザの出前を取った母親がいたとしたら、おそらく周囲の母親から総スカンを食ったことだろう。

引用の通り、石川さんは、ピザを注文した母親を否定的に捉えています。一方、僕は「運動会でピザの出前を取るのがそんなに悪いことか?」と疑問に思いました。

たしかに、一昔前の常識に照らし合わせれば「非常識」でしょうが、ただそれだけのことに過ぎないのではないでしょうか?

ピザを注文した母親の事例が、そもそも善悪の価値判断に馴染まないような気がします。それとも、石川さんは、ピザを注文して周りにふるまえるお金持ちの母親に嫉妬して、その気持ちを「非常識」と言いかえてこき下ろしただけかもしれません(笑)

一昔前の「常識」や「協調性」を振り回すのはなぜ?

他にも、石川さんはさまざまな母親を批判します。インスタントベビーフードを使う母親、女らしさを保つためにおんぶを嫌がる母親、母子そろって目立つことに精を出す母親……。悲しいかな、批判の根拠は石川さんの主観に依るところが大きいんですね。

石川さんは、「子育てで楽をしたい」「お母さんらしくない生き方をしたい」「子どもだけでなく自分も楽しみたい」といった母親の欲求には、全く共感できないようです。母親としてのスキル低下なども絡めながら批判していますが、それはそれで問題だというだけの話で、母親の根本的な欲求を否定する根拠とはならないはずです。

結局石川さんは、「昔はよかった。それに比べて今の母親はダメだ」と言っているだけです。暴走する母親を「個」の肥大化と結び付け、「協調性、いい意味での『妥協』が消えた」と嘆いていますが、その社会的背景にまでは思考が及ばないのでしょう。

豊かで、情報も入手しやすく、個人が尊重される現代社会――。女性の権利が拡充する流れを背景に、女性も多様な生き方を選択できるようになりました。

そんな社会に生きる母親が一昔前と同じ苦労を味わいたいと思うでしょうか?

自分を完全に捨てて子どもに尽くしたり、悪意渦巻く近所付き合いに参加したりしたいでしょうか?

これだけ価値観が多様化した社会で、一昔前の「常識」や「協調性」を振り回されてもシラけるだけだと僕は思います。というか、石川さんは、現代風な母親がとにかく気に食わないのかもしれません。「自分は苦労しているのに、他のお母さんたちはどうして楽しそうなの?」という怨念すら感じられるのは気のせいでしょうか?

「モンスターマザー」を批判するだけでは何も解決しない

石川さんは「モンスターマザー」を一方的に批判しています。しかし、こうした批判からは何も生まれません。むしろ、「モンスターマザー」を批判するのではなく、価値観を共有できない彼女たちとどうやって共存していくか、を模索する方が建設的ではないでしょうか?

石川さんが掲げる「昔はよかった」「母親はこうあるべきだ」といった固定観念は、時として自由や共存の敵となることでしょう。「女の敵は女」という格言はまさにその通りなのかもしれませんね。

『モンスターマザー 世界は「わたし」でまわっている』には賛同できる部分も多くありました。しかし、石川さんの考えに対する違和感が強く残ったのも事実です。

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