スペシャリストが求められる時代にジェネラリストを目指すという戦略

僕は今でも、前職を退職することを決めて、現場を離れることになった最後の日のことを覚えている。

その日はたまたま、一緒に仕事をしていた他社の方々と帰りの電車に乗り合わせた。普段あまり会話することのなかったAさんに、「僕はとりあえず家庭教師でもしながら、次の仕事を探そうと思います。Aさんは、ずっとIT業界で働き続けるつもりですか?」と聞いた。そんな僕に対して、Aさんはボソッと答えた。

「自分は専門学校でITを勉強して、これしかできないんです。だから、IT業界を辞められないんです」

Aさんの言葉と、悲しそうな表情が、今でも僕の記憶にこびりついている。

Aさんは僕より年上でプログラマーだった。プログラミングが好きでIT業界にいると思っていたが、どうやらそうではないらしい。他にできることもないから、IT業界にしがみついている、といった口調だった。

最近は「好きなことや得意なことを仕事にしよう」という風潮もあって、ジェネラリストよりもスペシャリストがもてはやされる時代だ。だから、スペシャリストになることが成功への第一歩であるような錯覚に陥る。

しかし、スペシャリストの多くは「その仕事しかできない人」であり、「その仕事」は大抵、他のスペシャリストでも代替可能である。「世界でただ一人の●●研究者」のようなケースを除けば、スペシャリストは「その仕事」から離れるわけにはいかないため、安く買い叩かれても文句を言えない。クライアントから「代わりはいくらでもいる」と言われれば、黙って安い給料で働くしかないからだ。

家庭教師をしていると、英語がペラペラな生徒や絵が上手な生徒と出会うことがある。彼らは「自分は英語(絵)が得意だから、将来はこれを仕事にしたいんです。だから、数学なんて勉強する意味がありません」と言う。

僕がそんな彼らに「英語(絵)が得意な人なんて、世の中には掃いて捨てるほどいる。むしろ、君よりも得意な人も多い。それなのに、本当に英語(絵)で勝負できると思う?」と言う。

その後にはもちろん、「英語(絵)が得意なだけでなく、それ以外のこともできる人が、最終的にはプロとして生き残るんだ。だから、今は『無駄だ』と思うようなことでも勉強する価値がある。英語(絵)で活躍したいなら尚のこと、それ以外の勉強を大切にしなさい」と続けるのだが……。

Aさんのように、プログラミングを専門として学んでも、それ以外のスキルが無いと、IT業界の最底辺でずっとプログラマーを続けるしかない。日本のIT業界ではプログラマーは下流工程の一部であり、決して待遇は良くない。プログラミング以外のスキルを磨いて上流工程に進まない限り、安くこき使われ続けるだけだ。

このような現実を知らず、子供たちはスペシャリストに憧れを抱く。だからこそ、僕はそんな子供たちにジェネラリストになることの大切さを話している。

ある仕事ができなくなっても、別の仕事をパッと始められれば、少なくとも食いっぱぐれることはない。衰退業界のスペシャリストになったら、その業界と運命を共にするしかない。しかし、それ以外のスキルを身に付けていれば、その業界を見限って別の業界に移ることもできる。

価値観の変動の激しい時代だからこそ、スペシャリストよりも、ジェネラリストを目指した方が賢明だろう。

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