相手のことを思って一生懸命話しても、それが相手の心に全く響かないことがあります。
むしろ、一生懸命になればなるほど、相手の心が離れていくことすらあるから困ったものです。
そんな「言葉が相手の心に響かない」ことについて、実体験を交えながら考えてみます。
自分のやりたいことと会社の求めていることとの食い違い
僕の前職は、IT企業勤務のサラリーマンでした。本社で仕事をするよりも、クライアント先に常駐することの方が多かったですね。
僕が新人だったこともあり、IT業界でよく耳にする「デスマーチ」なども経験しないまま退職しました。そして、人間関係も良好でした。本社の方々だけでなく、常駐先の社員さんにもとても良くしていただきました。退職を決めた後にずいぶん引き留められ、それが心苦しかったのも覚えています。
でも、僕の退職の意志は変わりませんでした。お世話になった会社を辞めたいというよりも、IT業界から完全に抜け出したいと思ったからです。
そう思った理由はいろいろありますが、決定的だったのは、僕のやりたいことと会社の求めていることとの食い違いでした。
退職したい旨を直属の課長さんに伝えた後、たくさんの方々と面談がありました。その中で、営業部長のFさんとも話し合う機会がありました。
僕はFさんのことが大好きでしたし、Fさんも僕のことを気に入ってくださっていたみたいです。だから、Fさんは、とても真剣に僕を説得されました。ただ、そのときのお言葉がどうしても僕の心に響かなかったんですね。
Fさんは「みみずくや他の社員が今頑張ってくれれば、将来会社は大きくなる。会社が大きくなれば、今よりもできることの幅が広がるんだよ。それって、楽しいことじゃん?」とおっしゃいます。
僕もFさんのおっしゃることを理解できました。でも、どうしても「そうですよね!」とは納得できなかったんですよ。
根本的な仕事観が合わなければ退職するしかない
Fさんの理想は「会社の成長→社員の満足」という順序です。営業部長らしい考え方です。
一方、僕の理想は「社員の満足→会社の成長」という順序です。もっと言うと、僕は「自分一人でもできることを極めたい!」と思っていて、会社に依存しなければできないことには全く興味がありませんでした。「自分の裁量で仕事したい!」という思いが強く、どうしても会社の成長を最優先には考えられませんでした。
IT業界に飛び込んで間もない新人が自分の裁量で仕事できるわけがありません。そのくらいはわきまえていたので、「ここで我慢すれば将来は自分で……」と思えれば退職しなかったのですが……。会社の方針がそもそも僕の理想からは程遠かったんですよ。
会社は利益を出したいので、大手プロジェクトの受注を最優先に考えます。しかし、そうした大手プロジェクトでは、個人の裁量を活かせる余地もなく……。巨大システム全体のちょっとした機能をチマチマ作るだけ、というのが大手プロジェクトです。これを「おもしろい!」とはとても思えませんでした。
もちろん、「おもしろい」「おもしろくない」だけが仕事ではありません。しかし、我慢した先にあるものが自分の理想からかけ離れたものだったら……。退職するしかないということです。
Fさんのお言葉が僕の心に響かなかったのは、根本的に仕事観が合わなかったからです。そして、Fさんのお言葉の背後にある会社の方針が僕の理想からかけ離れていたことに気づいたので、僕は退職を決意しました。
言葉が相手の心に響かないなら「去る者追わず」
僕自身の経験について長々と話してきましたが、これと同じことは日常生活で常に起こり得ることです。
価値観が根本的に合わないから、言葉がお互いの心に響かないという悲劇は少なくありません。お互い誠意をもって話しているはずなのに、それぞれの思いが平行線をたどるので、決して交わらないんですよね。
親と子ども、先生と生徒、上司と部下……。真逆の価値観を前提としているために話がかみ合わず、最終的にはどちらかが最悪の選択をせざるを得なくなります。多くの場合、力の弱い方が泣くことになるのではないでしょうか?
そうならないように相手の立場に立って考えることが大切なのは言うまでもありません。しかし、言うは易く行うは難しです。良かれと思って自分の理想を相手に押し付けるのはよくあることです。
僕自身、「こうしたい!」という思いが強過ぎて、お客さんとトラブルになることもしばしば……。家庭教師先の生徒や保護者と言い合いになることもあれば、「みみずく先生とは合わないです」と急に縁を切られることもあります。ライターの仕事にしても、クライアントの要望と取材先の要望との間で揺れ動いて苦しんだりします。
とはいえ、そうしたトラブルや苦悩も含めての個人事業主です。だから、言葉が相手の心に響かない場合、じたばたするのをやめました。僕が譲歩できる範囲では譲歩しますが、それが無理なら「去る者追わず」を徹底しています。
「言葉が相手の心に響かない」と悩む時間がもったいないです。そんな相手のために時間を費やすくらいなら、価値観を共有できる人を探した方が前向きですし、それができるのが個人事業主のメリットだと思います。会社勤めだと「あのクライアント(上司)とは話が通じないので縁を切ります」とは言えませんからね。
「去る者追わず」の精神が個人事業主を救います。