大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の1巻を読み終えた。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫) 新品価格 |
ダンジョン探索で美女と出会えることを期待する駆け出し冒険者の少年、ベル・クラネルが、ダンジョンでミノタウロスに殺されかかっていたところを【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに助けられる。ベルは絶世の美女であるアイズに憧れ、自らも強くなりたいと願って、さまざまな試練を乗り越えていく――。
王道ファンタジーだが、そこにラブコメ要素をぶっ込んだようなストーリーである。いろんな女性たちから好意を寄せられる(本人は気づいていない)ベルは、典型的なラノベの男性主人公といえるだろう。
1巻ということもあり、ベルを含めて、人物描写はあっさりしている。とはいえ、ベルのひたむきな思いが要所要所に挿入されているため、全く感情移入できないわけではない。むしろ、そういうシーンを読むと、若かった頃の思い出が蘇ってきて、つい考え込んでしまうこともある……かもしれない。人によっては。
RPGでは定番の経験値と能力値アップを論理的に説明するための存在として、天界から下界に降りてきた神様たちがいる。しかも、神様たちを万能にしないためのルールもきちんと設定されていて、極端なご都合主義にならないような配慮が見られる。
ちなみに、神様たちはオリジナルではなく、古今東西の神話から採用したもので、その性格も神話に由来する。ギリシャ神話のヘスティアやヘファイストス、北欧神話のロキやフレイヤ、インド神話のガネーシャなどが登場するが、どれも妙に人間臭い。人間(に近い存在)のキャラクターよりも人間臭いのだ。ヘスティアはベルにべた惚れ……。
他にも、「モンスターを倒すとお金を得られる」「モンスターが無限に出てくる」などのRPGの謎要素もきちんと仕組みが説明されている。たとえば、モンスターの体内には魔石があり、これがモンスターの生命維持に役立っている一方で、冒険者たちにとっては換金アイテムとされている。こういうちょっとした設定が面白い。
文章には凝った表現がなくて読みやすい。マンガを読むようにサクサク読める。「ヘスティアはそう思い。」のような、文を途中でぶった切った表現がところどころに見られるが、これは文章の個性というべきものなのかもしれない。
それから、ベルをはじめ何人かの視点で状況が説明されていくのだが、ベルが無知な割に地の文でよくしゃべるのがやや気になった。
読書が好きでないティーンズにも受け入れられやすいラノベといえるだろう。文章表現や人物描写の巧みさではなく、ベルの苦悩などを読者に上手く印象付けることに成功しているという点で評価されるべき作品だと思う。