2021年7月16~27日、吉祥寺のギャラリー・貸し画廊「リベストギャラリー創」で「『夢幻紳士』40周年 高橋葉介原画展」が開催されている。高橋葉介先生の画集『にぎやかな悪夢』(河出書房新社)の出版記念の個展でもある。
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映画『夢幻紳士 人形地獄』の記事でも書いたが、僕が高橋葉介先生を知ったきっかけは『学校怪談』だった。
小学6年のときはいろんなホラーマンガが愛読していた。その中でも、『学校怪談』のブラックユーモアあふれるストーリーは別格でのめり込んで行った。特に、主人公の一人である山岸涼一が好きだった。死んだり生き返ったりをくり返し(?)、おっとりとしていながら、時として悪人を罠にはめることも厭わない残酷さを垣間見せるその姿は、小学生の僕にとっては“憧れのお兄さん”だった。
その後偶然、『夢幻紳士』と出会い、青年・夢幻魔実也も大好きになる。どんな状況下でも冷静にふるまう。顔色一つ変えず、人を助けたり、陥れたり、傍観者になったり……。一方で、女たらしの側面もあって、決して憎めないキャラクターなのだ。立ち居振る舞いがかっこよく、「大人になったら、こういうかっこよさを身に付けたい」と思った。
こうして葉介先生の大ファンとなった僕は、『学校怪談』→『夢幻紳士』→『高橋葉介作品集』へと進んで行く。中学2年のとき、定期試験で1位を取ったご褒美として、朝日ソノラマから出版されていた『高橋葉介作品集』全20巻を書店で取り寄せてもらったが、何巻かは既に取り寄せ不可で悔しい思いをした。
『高橋葉介作品集』で葉介先生の作風の幅広さを知った。ホラーやブラックユーモアだけでなく、SFやコメディなどもあり、「葉介先生はこんなマンガも描くんだ!」と思った。一番驚いたのは、少年探偵・夢幻魔実也のドタバタ活劇だった。青年・夢幻魔実也とは違った面白さがあった。
僕が葉介先生のマンガがずっと好きだったのは、ストーリーだけでなく、筆などで描かれた独特の絵柄に魅了されたからだ。僕は高校時代まで(落書きレベルの)絵を描いていて、筆ペンをよく使っていた。それは葉介先生の絵柄に憧れて、「自分もこういう絵を描きたい」と思っていたからだ。それほどに葉介先生の絵柄は僕にとってかけがえのないものだった。
そんな葉介先生の個展が開催されることを知り、僕は初日の16日にリベストギャラリー創を訪れた。
整理券を受け取るため、開場の1時間前の11時に一度足を運んだところ、既に長蛇の列。平日の昼間なのに、こんなに葉介先生のファンが……。驚くと同時に、自分が大好きな葉介先生が多くの人たちにも愛されていることを知り、嬉しくなった。整理券を受け取るまでの時間は暑くて辛かったが(笑)
整理券番号は75番だったので、2時間くらい吉祥寺を散策した後、13時に再びリベストギャラリー創へ。20人の入場制限があったが、ちょうど70~80番台が優先的に入場できる時間帯だったため、すんなりと入場できた。
会場内はファンの皆さんの熱気に包まれていた。年齢も性別もさまざまな人たちが原画をじっくり干渉し、グッズを購入し、高橋葉介ワールドを堪能していた。
僕もサイン入りの画集『にぎやかな悪夢』と『文藝別冊 高橋葉介』、クリアファイル全種、病魔退散・無病息災のお札をまずは購入。『にぎやかな悪夢』と『文藝別冊 総特集 高橋葉介 大増補新版』はAmazonでも購入済みなので2冊になったが、「葉介先生の本は同じものが何冊あっても構わない!」だ。サイン入りは永久保存版の家宝に、サイン無しは普段使い用だ(笑)
総特集 高橋葉介 大増補新版 ?『夢幻紳士』40周年記念? (文藝別冊) 新品価格 |
ちなみに、後でTwitterのフォロワーさんに教えていただいたのだが、画集などのサインには「当たり」があるらしい。僕の購入した2冊のサインには大人魔実也の横顔が描かれていた。これ以外の絵柄もあるらしく、とても気になる……
グッズ購入後は、いよいよ原画の鑑賞タイム――。
学生時代にコミックスの表紙などで見たことのある絵がたくさんあって、特に『学校怪談』『夢幻外伝』などの表紙絵を見て懐かしさがこみ上げてきた。中でも『腸詰め工場の少女』に心惹かれた。過酷な運命に翻弄される少女と内臓が描かれいるのだが、悲惨さやグロテスクさが葉介先生の絵柄で中和されていて、愛おしさすら湧いてくる。何度も戻って来てじっくり鑑賞した。
表紙に印刷された絵だと小さくて見えない細部も原画で確認できる。「ここの線はこうなってたのか」「この部分はこの色とこの色が組み合わさっていたのか」などという発見が楽しい。
原画の多くは画集にも収録されているが、印刷版と原画ではやはり違いがある。紙の質やホワイトを入れた跡、黒で何度も塗った面など、印刷すると見えなくなってしまう部分を間近で見られるのだ。葉介先生の一枚一枚にかけた熱意が原画を通して伝わってくる。原画展の醍醐味だ。
1時間くらい原画を眺めていた。高橋葉介ワールドに迷い込むと、いつまでもとどまっていたくなる。学生時代からずっと好きだった高橋葉介先生をさらに好きになったひとときだった。