【100日後に食われる豚】ペットとして飼育した動物を食べるのは…

「100日後に食われる豚」というYouTube動画が注目されている。

生後75日のミニブタ「カルビ」と飼い主のほのぼのとした交流を撮影した動画だが、タイトルにある通り、カルビは100日後には殺されて食べられるという――。

AERA dot.の記事には、飼い主のAさんとチャンネルを運営する会社のS社長へのインタビューが掲載された。

S社長によると、「100日後に食われる豚」は、SDGs(持続可能な開発目標)の中にある「食品ロスをなくそう」という目標をPRするため、「命の尊さを考えてもらいたい」という思いから企画したのだとか。

一方、Aさんはマコなり社長氏やイケダハヤト氏などのビジネス系YouTuberに影響を受けたことを公言していて……。

S社長の「高尚な目的」とAさんの発言・経歴を比べると、何となく真意が見えてくる気がする。彼らは2ちゃんねる元管理人のひろゆき氏に、登録者数を伸ばすためのアドバイスを求めていて、いろいろお察しだ。

もっとも、顧問弁護士と相談しながら、動物愛護管理法の虐待にあたらないようにやっていくそうなので、法的な問題はクリアできるのだろう。この時点で外野がどうこう言う問題ではない。

ただ、僕個人としてはどうしても好意的になれないので、YouTube動画を埋め込んだり、ここまでで紹介した記事にリンクを張ったりはしない。

そもそも「100日後に食われる豚」にはデジャブがある。それもそのはず、似たような企画が昔、学校教育で行われたのだ。『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日』である。

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新任教師の黒田恭史先生が、故鳥山敏子氏が実践した「いのちの教育」の影響を受け、1990年に勤務先の小学校で「最終的に食べることを目的としてブタを飼育する」授業を行った。

当然、黒田先生の授業がテレビなどで紹介されると賛否両論の議論が巻き起こった。2008年には『ブタがいた教室』という映画にもなり、時代を超えて再び炎上、もとい議論を巻き起こすこととなった。

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黒田先生の「いのちの授業」が教育として成功だったのかどうかは不明である。ただ、黒田先生はこれがきっかけで有名人となり、大学教授にもなったのだから、個人的な目標としては成功だったのではないだろうか?

黒田先生は最近、YouTubeに算数動画をたくさん投稿し、コロナ禍をきっかけにメディアでも紹介されていた。黒田先生はやはり……と思うのだが、気のせいだろうか?

「100日後に食われる豚」にしても、『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日』にしても、豚を食べること自体は問題の本質ではないだろう。

そうではなく、名前を付けてペットのように飼育していた豚を、最初から食肉用として飼育していた豚のように扱うことが、人々の倫理観というか、感情に揺さぶりをかけているのだ、と思う。

たとえ一般的には食肉用の動物だとしても、ペットとして飼育しているのを食べるのか?

このことについては、児童文学作家の梨木香歩さんが『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の中で問題提起した。

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主人公のコペルの友達であるユージンは、担任の杉原先生が提案した「斬新で本質をついた教育」の中で、ペットとして飼っていたニワトリのコッコちゃんを解体して食べることになった。これがきっかけでユージンは不登校となる――。

この衝撃的な出来事をユージンがコペルに語るシーンは、海城中学の2012年の入試問題にもなっていた。

梨木さんは杉原先生を好意的には描いていない。ユージンがコッコちゃんを授業に提供するまでの経緯も、同調圧力に抗えなかった結果としている。ペットとして飼育していた動物を食べることを、「いのちの授業」などという高尚なものとして捉えていないのだ。

繰り返すが、人間が生き物を殺して食べること自体が問題なのではない。愛情をもって育てたペット、名前を付けて家族や親友のように接したペットをわざわざ食べることが問題なのだ。

以前、昆虫を食べる集まりに参加したとき、「愛情をこめて育てた虫を食べるのが楽しみなんです」と言っていた女性がいたが、そういうレアケースはさておき、飢饉などの非常事態でもない限りペットを食べないのは「常識」だ。その「常識」に揺さぶりをかけるから、賛否両論の議論が巻き起こる。

中国や韓国の犬肉料理に多くの日本人が嫌悪感を示すのは、日本人にとって「犬=ペット」だからだ。豚をペットとして飼育すれば、多くの人々がこれと同様の嫌悪感を抱くのは火を見るよりも明らかだが、そこをあえて「狙っていく」人たちをどう評価するかは、やはり個人の価値観に委ねられる。

僕は、「高尚な目的」を掲げて野蛮をカモフラージュするやり方を好まない。こういうやり方は、自分たちの信念を世界中に知らしめるため、残酷な動画をネット上で拡散させたイスラム国(IS)のプロパガンダと何ら変わらない、と思うからだ。

「100日後に食われる豚」が今後どうなっていくのかを静観したい。

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