TOCANA配給映画『人肉村』@ヒューマントラストシネマ渋谷

2021年8月25日、ヒューマントラストシネマ渋谷で上映中の映画『人肉村』を鑑賞した。

映画配給を行っているのは、地震予知、不思議科学、UFO、オカルト、世界遺産など知的好奇心を刺激するニュースを配信するサイト「TOCANA(トカナ)」。

『人肉村』は、カナダのテレビ界で演出家やカメラマンとして活躍してきたエイドリアン・ラングレー監督の作品。“Butchers”(虐殺者)という原題の通り、頭のおかしい食人一家が若者4人を追い詰め、拉致し、そして……というストーリーのバイオレンスホラー。刺激的なシーンも多々あるので、人によっては苦手だろうが、スプラッターも大好きな僕は興味津々だった。

TOCANA配給映画『人肉村』@ヒューマントラストシネマ渋谷

ドライブ旅行中の男女4人の若者たちが、車の故障のせいで、自然豊かな郊外の一本道で立ち往生してしまう。そんな彼らを襲撃するのは、近くの村に住むワトソン一家だった。

男女4人――男2人、女2人――の若者たちというシチュエーションから、こじれた恋愛関係が描写される。しかし、これはあくまでもオマケに過ぎない。ホラー作品に恋愛要素をブッ込んだために、肝心のホラー要素が薄まり、興醒めな展開になってしまう、ということはない。若者たちの心情や背景の描写に重きを置くのではなく、追い詰められていく彼らの姿を丁寧に見せていく流れで、純粋に恐怖や狂気を味わえるのが心地よい。

同様のことはワトソン一家にもいえる。どういう経緯で彼らはこの村に住むようになったのか、なぜ他の人間たちに危害を加えるようになったのか、などは明かされない。何度もセリフに登場する「ママ」がどんな存在だったのかが気になるが、それも結局は不明のままだった。

感情移入を許さない悪役たちの姿は、薄汚い格好や住居などと相まって、嫌悪の対象にしかならない。理由の分からない犯罪ほど恐ろしいものはないが、ワトソン一家の行動もそれと同じだ。理解不能な狂人たちが若者たちを惨たらしく手にかけていくのは胸糞悪く、だからこそカタルシスをもたらす。

作品全体に一貫するのは理不尽さだ。何の理由も意味もなく、若者たちは酷い目に遭わされる。現実世界を見ても、犯罪の多くは理不尽なものなので、『人肉村』のストーリーはリアリティーがあるともいえる。

一方、過激なグロ描写はそこまで多くない。解体シーンや腸を引きずり出すシーンなどはあるものの、それらのシーンが強調されるわけではない。大人の事情でこうなっただけかもしれないが、僕はこのくらいのグロ描写の方が好きだ。現在はネット検索でいくらでもリアルなグロを見られる以上、映画作品の中でまで意味のないグロを見る必要はない。視覚的な刺激よりも、人間たちが見せる醜悪な側面の方を丁寧に描写してほしい。そんなことをいつも思っている僕の好みに『人肉村』は合致していた。

とにかく救いのない映画だ。最後の最後にはラスボスのような者が登場して、「あれは何だったのだろう?」と思わされるが、それも含めて後味が悪い。そして、繰り返しになるが、この後味の悪さが心地よい。

他には、草木の生い茂る森の中や、ボロボロの廃屋、汚らしいガソリンスタンドなど、都会からは隔絶された舞台設定がストーリーにぴったりだった。ワトソン一家が所有するボロ自動車も味わい深かった。しかも、その自動車から流れてくる、明るくて下らない歌(エンディングテーマ)と、血なまぐさいストーリーとのギャップが印象的だった。監督の随所への拘りが映像美を生み出していた。

テンポよく話が進み、役者の演技にも魅了され、最後まで飽きずに楽しめる作品だった。

TOCANA配給映画『人肉村』@ヒューマントラストシネマ渋谷

 

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