【尼と地蔵1】敬語の知識から主語や目的語を把握できるって本当?

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妖怪博士の古文講座

今回から『宇治拾遺物語』「尼、地蔵を見奉る事」を読んでいきます。原文・口語訳・問題は、以下のページからダウンロードしてください。

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まずは、「一条桟敷屋の鬼の事」で学んだ「オニババアの法則」を使って、1段落目の主語を把握してしまいましょう。

今は昔、丹後国に老尼ありけり。/地蔵菩薩は暁ごとにありき給ふといふことを/(老尼は)ほのかに聞きて、暁ごとに地蔵見奉らんとて、ひと世界惑ひありくに、/博打の打ちほうけてゐたるが見て、「尼君は寒きに何わざし給ふぞ」と言へば、/「地蔵菩薩の暁にありき給ふなるに、/(私(=老尼)は)会ひ参らせんとて、かく歩くなり」と(老尼が)言へば、/「地蔵のありかせ給ふ道は/我(=博打)こそ知りたれ。/(あなた(=老尼)は)いざ給へ。/(私(=博打)が)会はせ参らせん」と(博打が)言へば、/「あはれ、うれしき事かな。地蔵のありかせ給はん所へ、/(あなた(=博打)は)我をゐておはせよ」と(老尼が)言へば/「(あなた(=老尼)は)我に物をえさせ給へ。/(私(=博打)が)やがてゐて奉らん」と(博打が)言ひければ、/「(私(=老尼)は)この着たる衣(を)、奉らん」と(老尼が)言へば、/(博打が)「さは、いざ給へ」とて隣なる所へゐて行く。

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古文常識の確認

主語の確認が終わったところで、次は古文常識の確認です。

1つめ。「丹後国(たんごのくに)」は現在の京都府北部のことです。定期試験や大学入試では、昔の地名を問われることもあるので、ある程度は覚えておいた方がいいですよ。

2つめ。「老尼」は「年老いた尼(あま)」のことです。「尼」は、出家した女性のことです。

みみずく
出家というのは仏教用語で、修行に打ち込むために、普通の生活を捨てて寺などに生活の場を移すことをいうんだ。要は、僧侶になることだね。女性が出家すると「尼」と呼ばれるんだよ。
狸央
じゃあ、女性が尼になるとき、男の坊さんみたいに髪を剃ったんですか?

平安貴族の女性たちが出家する場合は尼削ぎ(あまそぎ)にしました。尼削ぎは髪を肩のあたりで切るだけで、丸坊主にはしません。平安貴族の女性は長い髪を大切にしていたので、ショートヘアーにするだけでもかなりの覚悟だったんですよ。

3つめ。「地蔵」は「地蔵菩薩」です。菩薩は、人々を教え導こうとして修行を続ける者をいいます。特に、地蔵菩薩は、地獄で苦しむ亡者たちを救うといわれていて、昔からとても人気がありました。

夢狐
道ばたに立っているお地蔵様は、実は菩薩だったのね!

古文常識・丹後国(たんごのくに) … 現在の京都府北部。

・尼削ぎ(あまそぎ) … 出家した女性が、髪を首や肩の辺りで髪を切りそろえること。

・菩薩(ぼさつ) … 人々を教え導こうとして修行を続ける者。

敬語の知識から主語や目的語を把握する

敬語は、「一条桟敷屋の鬼の事」でも解説した通り、文法問題として頻出です。しかも、敬語は古文読解でとても役に立つんですよ。何がどう役に立つのかを解説します。

>>復習:【一条桟敷屋の鬼3】敬語の種類と敬意の方向を正しく理解しよう!

地蔵菩薩は暁ごとにありき給ふといふことを/(老尼は)ほのかに聞きて、暁ごとに地蔵見奉らんとて、ひと世界惑ひありくに、/

この部分では、「ありき給ふ」の「給ふ」と、「見奉らん」の「奉る」が敬語です。「給ふ」も「奉る」のように、他の動詞の後ろにくっついて意味を付け加える動詞を補助動詞といいます。「給ふ」は、「動詞の連用形+給ふ」で、「~なさる」という尊敬表現になります。一方、「奉る」は、「動詞の連用形+奉る」で「~申し上げる」という謙譲表現になります。

みみずく
「地蔵菩薩は暁ごとにありき給ふ」の「給ふ」は尊敬語ですが、これは誰に対する敬意を表してるの?
狸央
S(主語)の地蔵菩薩です。
みみずく
正解!

地蔵菩薩は、「菩薩」というくらいだから、人間と比べたら偉い存在です。だから、主語に対する敬意を表すために、述語に「給ふ」という尊敬語が使われています。動作をする人、すなわちS(主語)が偉い場合、述語に尊敬語が使われます。

ちなみに、「ありく」は「歩く」と漢字表記することからも分かる通り、「あちこち歩き回る」という重要古語です。昔はお地蔵様が歩き回っていたんですね(笑)

みみずく
次に、「ほのかに聞きて」の主語は誰?
夢狐
老尼ですか?
みみずく
どうしてそう思うの?
夢狐
「オニババアの法則」から「を」の後ろは主語が変わるし、何となく文脈的に……。

夢狐の言う通り、このくらいなら文脈から主語を把握できます。しかし、難解な文章になったら、文脈判断は使えません。そんなときこそ、敬語の変化をしっかりチェックすべきです。

「ありき給ふ」には尊敬語が使われていますが、「ほのかに聞きて」には敬語が使われていません。ここから、「ほのかに聞きて」の主語が、偉いお地蔵様から偉くない老尼に変わった、と判断します。

みみずく
もっと面倒な問題を出すよ。「地蔵見奉らん」は、「地蔵が見よう」と訳すの?それとも「地蔵を見よう」と訳すの?
狸央
「奉る」は謙譲語なので、動作を受ける相手が偉い。だから、「老尼が地蔵を見よう」と訳します!
みみずく
その通り!

狸央の説明が正しくて、動作を受ける人、すなわち目的語(O)が偉い場合、述語に謙譲語が使われます。

「地蔵見奉らん」のような助詞の抜けた文を訳すとき、今回のように敬語の知識が生きてくることもあるんですよ。

「地蔵菩薩の暁にありき給ふなるに、/(私(=老尼)は)会ひ参らせんとて、かく歩くなり

この文の「ありき給ふなる」「会ひ参らせん」「歩くなり」の主語も敬語の変化から判断します。

「ありき給ふなる」の「給ふ」は尊敬の補助動詞なので、S(主語)が偉い人。したがって、「地蔵菩薩」を「地蔵菩薩」と訳して、これを主語と考えます。

一方、「会ひ参らせん」の「参らす」は謙譲の補助動詞なので、主語が老尼に変わっています。「歩くなり」にも敬語が使われていないので、これに対する主語も老尼です。

このように、敬語の変化から、省略されている主語を把握することもできます。

夢狐
尼さんは、歩き回っているお地蔵様に会いたがってるのね!

「せ」の識別

「地蔵のありか給ふ道は/我(=博打)こそ知りたれ。/(あなた(=老尼)は)いざ給へ。/(私(=博打)が)会は参らん」

尼さんの前に現れたばくち打ち(=博打)。彼のセリフの中に、「せ」が3回出てきます。これらの「せ」を文法的に説明できますか?

「せ」は、次の手順で識別します。

文法「せ」の識別

① 「する」と訳せる → サ変動詞「す」の未然形

② ア音(四段・ラ変・ナ変の未然形)+「せ」 → 使役・尊敬の助動詞「す」の未然形・連用形

※ 「ア音+せ給ふ」の「せ」 → 尊敬の助動詞「す」の連用形(100%ではない)

③ 「~せば…まし」 → 過去の助動詞「き」の未然形

④ その他 → 使役・尊敬の助動詞「さす」の未然形・連用形活用語尾、サ行下二段活用動詞の未然形・連用形活用語尾など

まず、「ありかせ給ふ」の「せ」は、「ア音+せ」です。しかも、「給ふ」に接続しているので、尊敬の助動詞「す」の連用形だと分かります。

次に、「会はせ参らせん」を品詞分解しながら「せ」を識別します。

「会はせ」は「会はす」という動詞が無いので、当然「会わせ」という活用形もありません。したがって、「会は/せ」と品詞分解します。この「せ」も「ア音+せ」ですが、後ろに「参らせん」が続くことを考えると、使役(させる)の助動詞と考えられます。

一方、「参らせ」は「参らす」の活用形なので、「参らせ」で一語です。

品詞分解会はせ参らせん → 会は/せ/参らせ/ん

・会は … ハ行四段活用動詞「会ふ」の未然形

・せ … 使役の助動詞「す」の連用形

・参らせ … サ行下二段活用動詞「参らす」の未然形

・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形

みみずく
ばくち打ちは、「俺はお地蔵様の居場所を知ってるぜ。会わせてやるよ」と尼さんに言ってるんだよ。
狸央
でも、この後ご褒美を要求しているので、詐欺っぽいなぁ……。
夢狐
ばくち打ちの言うことなんて、そもそも信じちゃダメよ!
みみずく
二人とも、詐欺をかぎ分けるそういう感覚をこれからも大切にしてね!

尼と地蔵2】へ続く

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